離乳食を拒否され続けているときはどうしたらいい? 栄養のプロフェッショナルに聞きました!
- 離乳食は生後5〜6ヵ月ごろに始め、時間をかけて少しずつ食べられるものを増やしていくと良いと言われています。けれど、なかなか新しい食材を受け入れてくれないことや、激しい偏食に悩むママ・パパは少なくありません。
- 栄養不足になるのではないかと悩まれている方もいらっしゃるかもしれませんね。離乳食が進まないときはどのように解決するといいのでしょう。栄養のプロフェッショナルである札幌保健医療大学の川口美喜子先生に教えてもらいました。
赤ちゃんは、それが必要だとわからない
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離乳食の進みに悩まれているママ・パパはきっと、お子様のことを思って栄養のある食べ物を準備されていることでしょう。それを受け入れてもらえないと、焦ったり不安な気持ちになったり、ときにはとても悲しい気持ちになるかもしれませんね。
「美味しいよ、食べてみて」「とっても栄養があるんだよ」といった声かけをしながら与えているかもしれませんが、残念なことに離乳食期のお子様はまだ大人の発する言葉の意味をあまり理解できません。そのため目の前に食べ物を差し出されても、どうしたらいいのか分からないことがあるんです。
だからスプーンを遠ざけてみたり、お皿をひっくり返してみたり、口に入れたものを吐き出してみたりと、食事を拒否するような行動をとることがあります。
そうすると大人の方がだんだん耐え難くなってきて「一口だけでも!」とつい強い口調で食べさせようとしてしまうことがあります。するとお子様の方は「急に怒られた!」と思ってしまい余計に食事を拒否することがあるのです。
- 確かに、身に覚えがあるわ……。作ったものを拒絶されると親の方もショックなのよ。
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目の前に差し出された物が食べ物だとわかっていてもとりあえず「嫌だ」と表明することで自己主張を試みているケースもあります。まだ言語による思考やコミュニケーションを上手に行えないお子様は、何か不快なことがあったことをそのような拒絶の態度で伝えているのかもしれません。
せっかく作ったものを拒絶されてショックを受けるママ・パパの気持ちもわかりますが、言葉がわからないお子様の立場からすれば、仕方ないことなんです。
解決策は、思い切って好きにさせてみる
- では、どうすれば離乳食が「美味しいものだ」って気づいてくれるんでしょう?
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解決策の一つは、思い切って食べ物を目の前に置いてお子様の好きに触らせてみることです。人生経験のないお子様はまだ「何が美味しいのか」「食べ物からはどんな味がするのか」がわかりません。言葉で説明をされても理解ができませんから、よくわからないものをいきなり口に入れられることに不快を覚えるのです。
大切なのは、お子様に食べ物の美味しさを発見してもらうこと。「これは食べられるものなんだ」「美味しいものなんだ」と気づいてもらうために、まずは食べ物に触ってもらいましょう。赤ちゃんは手にしたものを自然と口に運びますから、段々と美味しいものがあることに気がついていくことでしょう。ときにはお子様の手に食べ物を乗せてみてもいいかもしれません。これを様々な食材で繰り返していくうちに食べられるものは増えていきます。
- なるほど。あえて遊び食べをさせるんですね。
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またお子様はまだ言葉の意味がわからないので、相手の意図を非言語の領域で読み取ろうとします。ですから、どれほど「いい子だから、食べてみて」と言葉で伝えようとしたところで、その口調が厳しいものであれば何か悪いことが起きているのだと感じて食べなくなってしまいます。
声をかけるときは、内容よりも表情や口調に気をつけた方がいいかもしれませんね。
一度ダメでも、何度もトライ
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毎日食事を用意する側からするととても大変なのですが、小さなお子様はまだ自分の好き嫌いすら定まっていません。ですから一度は拒絶されたものでも、何度もトライしてみてください。昨日は食べなくても、明日は食べるかもしれません。
また、お子様が離乳食を食べないことに悩んでいる多くの方が実践しているように、かわいらしく盛り付けをしてみる、半液状の食べ物で動物の絵を描いてみるといった手段は有効です。「ご飯の時間=楽しい時間」だと思わせてあげましょう。
心配しすぎないこと
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今ではこのように、多くの方に栄養に関するアドバイスをしていますが、実は私自身の子どもは幼いときまったく野菜を食べませんでした。
子どもが大きくなり、充分に言葉が通じるようになってから栄養の重要性について説明をしましたが、それがわからない赤ちゃんのころは為すすべがないほどに偏食がひどい子どもだったのです。それでも今ではしっかり成長し、健康に過ごしています。
- とはいえ、ちゃんと食べてくれるようになるのか不安でたまらないママ・パパもいると思います。
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お子様の偏食がひどいと感じても、離乳食がなかなか進まなくても、過剰に心配する必要はありませんよ。全体的に食が細くなり、体重が減ってきているような場合は医療機関を受診する必要がありますが、順調に体重が増えご機嫌で過ごしているようであれば、食べムラなどはさほど問題ではありません。
食べ物への興味関心が薄いような子であっても空腹を感じれば食べるようにはなるでしょう。とくに母乳やミルクを併用しているうちは栄養バランスへの心配はほとんど必要ないんです。
まずは食べる楽しさを伝えて
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お子様に健やかに育ってほしいと願うのであれば、離乳食はぜひ「食事=楽しいこと」とインプットさせてあげてください。食事は怒られる時間、苦痛を感じる時間だと思ってしまうと、その後も食べる楽しみが減ってしまいます。食事は楽しく食べるほど消化・吸収が良いことが知られています。
生涯、ご飯を美味しく食べられるように、特に離乳食期は栄養バランスよりも楽しく食事をすることを優先すればOKです!
取材協力
川口美喜子
札幌保健医療大学 保健医療学部 教授、大妻女子大学 家政学部 特任教授、島根大学医学部 特別協力研究員。
大妻女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業、管理栄養士取得したのち、島根大学医学部で博士(医学)学位を取得。専門はがん栄養、食育、スポーツ栄養、高齢栄養。
管理栄養士の卒後教育、在宅介護における食事の指導、新宿区の子どもたちを対象とした「食とスポーツ」の支援、千代田区在住者・就労者のための妊活食支援などを精力的に行う。
著書に『がん専任栄養士が患者さんの声を聞いてつくった73の食事レシピ』(医学書院)、『いっしょに食べよう フレイルを予防し、老後を元気に暮らすためのらくらくメニュー』(木星社)、『100年栄養』(サンマーク出版)などがある。