子どもの性格はどう決まる? 発達の専門家に聞きました!
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- この間、友人の赤ちゃんたちと一緒に遊んだのだけれど、人見知りをしたりしなかったり、よく笑ったり緊張しがちだったりと、いろいろなタイプの子がいたわ。早くも性格が出てきているのね。
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- ちょっと待ってください。乳幼児の時期に「この子はこういう性格だ」と決めつけてしまうのはまだ早いかもしれませんよ。お子様は少しずつ段階を経て成長していき、そのときどきでいろいろな影響を受けるのですから。良い機会なので、お子様の性格の形成について学んでみませんか? 発達に詳しい専門家の先生にお話を聞いてみましょう。
教えてくれたのは
子どもの発達の専門家 坂上裕子先生
青山学院大学 教育人間科学部 心理学科教授。
性格や「らしさ」は体質・気質をベースに形成される
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- さっそくですが、先生、子どもの性格っていつごろ決まるものなのですか?
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人は成長するにつれてその人の「らしさ」が形成されていきます。言葉を自在に操れるようになり会話のキャッチボールができるようになると、感じ方や考え方が広がり、それまで見えていなかったいろいろな側面が見えてくるようになります。
「おこせん」の主なユーザーは乳幼児のお子様を育てている保護者の方が多いと聞きます。このぐらいの時期のお子様はまだ言葉を自在に操ることはできないことがほとんどなので、性格の形成途上にあるといえるでしょう。
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- では、子どもによって個性があるように見えるのはなぜですか?
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- 周りの環境や物事への反応の違いが、個性として見えているのです。物の見え方や聞こえ方など遺伝的な体質は人によって異なります。物事への反応の仕方や感情の表し方はこの体質をベースにして現れるんです。これが気質です。同じような大きさの音を聞いたとしても、心地よさを感じる赤ちゃんであれば機嫌がよくなり、不快感を覚える赤ちゃんは不機嫌になります。
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- なるほど、五感などの感じ方はそれぞれに異なっているんですね。それに対する反応が異なるのは当然のことだわ。
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- 例えば、突然目の前で大声を出されたら、大抵の人はびっくりしますよね。それに対する反応はコントロールできるものではありません。びっくりしないようにする、ということは難しいのです。「大声で叫ぶ」といった反応を最小限に留めたとしても、心臓の鼓動を意図して鎮めることはできないでしょう。この気質は、持ってうまれたものなんです。
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- では、性格はこの気質によって決まっていくのでしょうか?
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その気質に対して、周りの大人がどのように働きかけていくか、どのような環境で育てていくのかによって、その後の性格は変わっていきます。
感受性が高く初めて目にするものに少し恐怖心を抱きやすいお子様に対して「大丈夫だよ、触ってごらん」と声をかけるのか、「触ってみなさい」と強く背中を押すのかによってその後のお子様の反応の仕方は変わるからです。
長い時間をかけて性格は作られていく
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- 性格はどのくらいの時間をかけて形成されていくのですか?
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とても長い時間をかけて形成されていきます。思春期以降になっても、変わる側面もあれば、変わらない側面もあります。子どもは、保護者だけではなく、仲間や家庭以外のさまざまな大人との関わりを通して、「なりたい自分」を思い描き、それを目指して努力をするようになります。その中で、変わらない部分もあれば、変わる部分もあり、それらを全部ひっくるめて、その人らしさが現われてくるのだと言えます。
幼少期から小学生のころでは人見知りがちで、サマーキャンプなどの行事に参加することを嫌がっていた子が、一念発起して中高生のときには学級委員長となり人前で堂々と振る舞うというケースもあるんですよ。
子どもの性格は長い時間をかけて作られていくので、何か心配になることがあっても焦らず、気長に働きかけを行っていくといいでしょう。
問題行動が見られたときも、まずは受けとめて
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- 例えば、お友達に暴力を振るってしまうなど、少し心配になってしまうような反応を見せるお子様にできることはあるのでしょうか。
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一度お子様の視点から考えてみましょう。お子様が暴力を振るうとき、その子は驚いたり、不快に感じたりしたことがあったのではないでしょうか。他の人にとっては何でもないことであっても、その子にとっては強烈な不快感や恐怖心を感じる出来事があったのかもしれません。暴力はいけないことだと教える必要はありますが、感情にまかせて怒鳴ったり、無理矢理抑えつけたりしても、まだ言語能力が育っていないお子様は理解ができません。まずは「◯◯が嫌だったのかな」「怖かったね」など、一度気持ちを受けとめたうえで、何がいけなかったのかを伝えてあげてください。
不安を受けとめてくれる大人がいることが分かれば、お子様は安心し、少しずつ外への刺激に慣れていくでしょう。遠回りをしているように思えますが、これがお子様を落ち着かせるための近道になるはずです。
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- 極端に何かを怖がったり、人見知りをしたりする子の恐怖を和らげる方法はありますか?
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- 「怖い」と感じることを止めることはできません。「ここは大丈夫だ」「この人は危なくなさそう」とお子様が感じられるような経験を積み重ね、少しずつ外部の刺激に慣れさせてあげましょう。お子様が見通しを持てる言葉をかけて安心させてあげるのもよいと思います。無理に外へ突き出すようなことをする必要はありません。お子様が怖がる対象には大人が一緒に向き合い、少しずつ背中を押してあげることで自信をもてるようにしていくのがいいでしょう。
先生からのメッセージ
まだ言葉による意思疎通が器用にできないお子様は、大人から見ると不可解な行動をすることが少なくありません。「どうしてこんなことをするのだろう」と思ったら、誰かと一緒に子どもの視点から物事を見てみてください。面白い発見や、遊び方、関わり方のヒントが得られると思います。
お子様に気になる行動があり、それに対して悩むことがあれば、第三者の目と手を借りてみるとよいと思います。子育ての味方はたくさんいます。公的な支援も数多くあり、子育てや発達に詳しいプロが手を貸してくれることもありますので、どんどん利用して、お子さんのよいところ、かわいいところを一緒に見つけてもらいましょう。
取材協力
坂上裕子先生
青山学院大学 教育人間科学部
心理学科教授。専門は「生涯発達心理学」と「臨床発達心理学」。主な研究テーマは、「乳・幼児期における自己ならびに自己理解の発達」「親子関係の変化と親としての発達」「子育て支援」「乳幼児期の発達や子育ての時代的変化」など。著書に『子どものこころの発達がよくわかる本』(講談社)、『問いからはじめる
発達心理学〔改訂版〕: 生涯にわたる育ちの科学』(有斐閣)などがある。
坂上裕子先生の著書
『子どものこころの発達がよくわかる本』(講談社)
胎児のころから自我が芽生え、仲間との関わりが育っていくまでの、子どものこころの発達を詳しく、そしてわかりやすく解説。子どものこころを理解し、気持ちに寄り添った子育てをしたいと考えるママ・パパはもちろん、子どもの成長に携わる人に広く役立つ一冊です。