子育て心理学 将来を大きく左右する非認知能力って?
- 最近よく「非認知能力」っていう言葉を耳にするわ。なんでも子どもの一生を左右する大切な能力なんですって。
- 忍耐力や協調性、物事をやり遂げる力や前向きな姿勢を持つことをそう呼んでいるようですね。
- うちの子にもぜひ身につけてほしいわ。どうすればいいのかしら。
- 心理学の専門家に聞いてみましょう。法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授、よろしくお願いします!
勉強だけでは身につかない、社会で生きていくための力
学歴が重視されるようになった現代では、長らく記憶力や思考力、分析能力などを鍛えることが勉強ができるようになること、いわゆる認知能力を高めると捉えられてきました。まさに教育の主眼が置かれてきました。
しかしながら、それだけでは学校の集団生活に馴染めなかったり、行事に意欲的に取り組めなかったり、グループ活動が重視された授業が展開されるようになった現在、多少の我慢もできず人とうまく関われないと授業そのものに意欲がなくなり、ひいては子どもの将来に渡ってよりよく生きていくことが難しくなる可能性のあることが明らかになってきました。
そこであらためて注目されだしたのが非認知能力です。非認知能力とは、意欲性や協調性、コミュニケーション能力や想像力、自制心、忍耐心といった、人が社会で生きていくため必要な力のことを指します。
非認知能力という言葉自体は、1960年代からアメリカで行われたペリーの就学前プロジェクト調査というもので既に使われています。この調査は、子どもに非認知能力を身につけるための教育を施したグループとそうでないグループに分け、成人になったときの暮らしぶりを調べるというものです。調査の結果、非認知能力を身につけた子どもはそうでない子どもに比べて、将来の逮捕率が低くなったり、経済的に安定したりすることが明らかになりました。非認知能力を伸ばす教育を行うことは、子どもの将来に重要な影響を及ぼすことがわかったのです。
勉強だけでは身につかない、社会で生きていくための力
そんな大切な非認知能力ですが、伸ばす方法は決して難しくありません。
非認知能力とは、他人に親切にすることや、自分で自分をコントロールをすることなどごく基本的な能力ばかりだからです。例えばぬいぐるみを渡して「優しくしてあげようね」と声をかける、物を渡してくれたら「優しいね。ありがとう」と言ってあげるといったことなどの積み重ねで、非認知能力は育まれていきます。そうです、昔から私たちが育てたいと思っている能力に他なりません。
皆様はお子様が小さなときには粘り強く、我慢強く、思いやりをもってお世話をされていたのではないでしょうか。お子様はそんな両親の姿を日々目にしています。非認知能力を伸ばすために特別に必要な教育といったものは大抵の場合必要ではなく、相手の話を聞くこと、お礼をいうこと、暴力を振るわないことなど望ましい行動についてわかりやすく説明し、親自身がモデルを与え、できたらほめてあげることを日々繰り返し教えていたら育つのです。
とはいえ、その望ましい行動の中身自体は発達に応じて段階的に変えていく必要があります。例えば小学校就学時には45分静かに座っていられるようにその前から少しずつそのような環境に慣らすといいでしょう。先のことを見通せるようになるためには、カレンダーや手帳を見せて時間のことを教えたり、いつまでに何ができてなくてはならないのか段取りの取り方などを一緒に考えてやると良いでしょう。人が社会で生きていくうえで必要なスキルは、初めから子どもは身につけていません。生活のなかでじっくりと教えてあげることに間違いありません。
日常の幸せに目を向ける
子どもの非認知能力を伸ばすことは、その子の幸せにつながります。自分自身をマネジメントして、他者を理解し、人とうまく関われることは多くの喜びを与えてくれます。努力をして成果を得ることで感じられる幸せももちろんたくさんありますが、一過性のものに終わる可能性があります。幸せのなかには、朝の陽の光を感じて心地よいと思うこと、健康に一日を過ごせたことに感謝すること、人や社会とつながる楽しさといったささやかでいて生きていく上で永続的に大切なものもあります。恵まれた環境に感謝できないと人はどんどん多くを求めていくようになり、幸せを取り逃がしてしまうかもしれません。
子どもの幸せを願うのであれば、教育方法にこだわるよりも目の前の幸せひとつひとつに気づけるようにすることの方が大切なのかもしれません。
取材協力
渡辺弥生(わたなべ・やよい)
法政大学文学部心理学科教授。著書に子どもの「『10歳の壁』とは何か? 乗りこえるための発達心理学 」(光文社新書)、「まんがでわかる発達心理学」 (講談社)「中学生・高校生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術」(明治図書出版) などがある。