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赤ちゃん心理学:鏡を見せると泣き止むのはなぜ?

ふーちゃん
子どもを泣き止ませるいい方法ってないかしら。先日、電車のなかで大泣きして困ってしまったの……。
イワネン
以前、皆さんご協力をお願いした泣き止みに関するアンケートでは、「鏡を見せると泣き止む」「泣いている姿を動画にとっておき、泣き出したら見せる」といった回答が複数見受けられました。
もしかしたら、その中にヒントがあるかもしれませんよ。
ふーちゃん
なるほど! では、専門家に聞いてみましょう。法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授、よろしくお願いします!
渡辺先生
はい、よろしくお願いします。一緒にこれまでの研究内容からお子様の気持ちを紐解いていきましょう。

赤ちゃんは同世代の子が気になる

泣いている赤ちゃんに、鏡や自分が泣いている動画を見せると泣き止むとのことですが、年齢によって泣き止む理由は異なると考えられます。多くの場合「これは自分だ」と認識して泣き止んでいるわけではないと思います。というのは、赤ちゃんが鏡に映る姿を自分だと気がつくのは1〜2歳ごろと考えられます。それまではあまり自意識がありません。
そこで、泣き止む理由として考えられるのは、1歳までは鏡に映った自分の姿を「他人」として捉え、「おやっ?」といった興味や好奇心から、その存在が気になって一時的に泣くことを忘れているということです。一方で、自分の顔が鏡に写っていることがわかり始めたら、自分の顔に興味を持ってじっと見ることになるから、泣き止みにつながるのかもしれません。

赤ちゃんは同世代の子が気になる

赤ちゃんは生まれたときから人の顔を好んでよく見ています。生後1カ月ごろまでは、光が当たっているところと暗くなっているところを認識する程度ですが、生後3カ月ごろになると顔の目、鼻、口といったパーツに関心をみせ、視線が顔全体を見るようになります。そのころから、いろいろな人の顔に興味をもつようになり、同年代の子の顔もよく見るようになるのでしょう。

同年代の子が泣いていることに動揺している可能性も

鏡や動画に映っている子が泣いている姿を見て感情が伝染し、動揺している可能性も考えられます。大人でも側にいる人がいきなり大声を上げて泣き出したらびっくりしますよね。赤ちゃんも同じで、その声や仕草に驚いて泣くことが一瞬止まったのかもしれません。実はその泣き声の主は自分自身というわけですが……。
おかしな現象だと感じるかもしれませんが、これは感受性が育つうえで大切なプロセス。このようなシーンを繰り返す際に、周囲から「びっくりして泣いたのね」と声をかけられたりすると、困ると泣くんだということを学んでいたりします。

ちなみに2〜3歳になると、他の子が泣いていることに対して動揺するだけではなく、泣いている子のところに自分の親を連れていくなど、問題を解決しようとするようになります。泣いている子自身の親を連れていくという適切な解決策をとれるようになるのは、もう少し大きくなってからです。

泣き止ませたいときはあの手この手で気分転換

電車の中で赤ちゃんが泣きだしたとき、ほとんどのお父さん・お母さんは体をゆすったり、おもちゃを見せたり、お子様せんべいを食べさせたりしますよね。これは、知らず知らずのうちに赤ちゃんに気分転換をさせているんです。
赤ちゃんが泣き出す理由には「お腹が空いた」「オムツが汚れて不快」といった具体的な解決策があるものもあれば、環境が変わることで「何だかわからないけれど何かが不快」というケースもあります。何が不快なのかは、時間も場所も社会的文脈として理解できずにいます。大人は泣く理由を知りたがりますが、解明するのは簡単ではありません。なので、泣いている理由を無理に追求するのではなく、気持ちに寄り添い、察してあげます。気持ちが切り替えられるように、あらかじめいくつかの手段を準備して、あの手この手で気分転換をさせてあげましょう。

※隠れた病気などにより苦痛を感じて泣いているケースもあります。心配な場合は医療機関を受診してください。

赤ちゃんは親がごきげんになる曲が大好き!?

アンケートには「ある音楽を聴かせると泣き止んだ」という回答もあるようですね。実は、赤ちゃんがどのような音楽を好むのかは心理学ではまだ十分に明らかになっていません。人によって音楽の好みが分かれますが、どのように分かれていくのかもわからないんです。大半は、環境の影響を受けていると考えられますが、明確ではありません。ただ、新奇な刺激には反応することが多いようです。これは「好き」というよりも変化そのものに驚いて反応しているのでしょう。

もし、ある音楽を聴かせて泣き止むということがあれば、お父さん・お母さん自身がその曲を気に入っている、あるいは聴かせている間はリラックスされている、ということが考えられます。親自身がリラックスしていることや「この曲を聴かせれば泣き止むはずだ」という親自身の安心感が赤ちゃんにも伝わり、安心して泣き止んでいるのではないでしょうか。このように感情が移っていく現象を心理学では「感情感染」といったりしています。

赤ちゃんは親がごきげんになる曲が大好き!?

それに近い反応として「社会的参照」という名前がつけられている現象があります。例えば乳幼児が転んだとき、その瞬間は何が起きたかわからずぼうっとしているのですが、周囲の大人が「大丈夫!? 大丈夫!?」と騒ぐと大変なことが起きたのだと思い、大泣きを始めるといったようなことです。これに対し、「大丈夫よ」と落ち着いてかかわると、乳幼児は泣いたりしません。自分で状況を判断することができないので、周囲の大人の反応で「この場は安全か」「今は危険が迫っているのではないか」ということを判断しているのです。ですから大人が騒ぐほど怖がり、よく泣くようになるんです。お子様を泣かせたくないときは、まず大人が冷静になることが大切です。

赤ちゃんに一番長く接する人がリラックスできるように

電車の中などの公共の場では、誰かに怒られはしないかと必死で赤ちゃんを泣き止ませようとするお母さんを見かけます。でも、そんなときに限って赤ちゃんはなかなか泣き止んでくれません。お母さんの緊張感が伝わって、切迫した気持ちになってしまうんです。そのくらい子どもは両親の気持ちを敏感に感じ取ります。

また、母親があやしてもなかなか泣き止まなかった子が、あまり子育てに参画していない父親が抱っこすると泣き止んで、日頃お世話をしている母親がショックを受ける……というシーンに覚えはないでしょうか。これは父親が優れているわけでも母親が悪いわけでもなく、父親に泣き止ませる自信がある、あるいは追い詰められていないぶん気持ちにゆとりがあるため、関わりが慌ただしくなく、赤ちゃんが安心できることによって泣き止んだりするのでしょう。

このように、赤ちゃんを泣き止ませるためには、まずあやす人自身がリラックスすることが大切です。お母さんが赤ちゃんに接する時間が一番長いのであれば、まずお母さんがリラックスできるよう家族がサポートできるといいでしょう。

取材協力

渡辺弥生教授

渡辺弥生教授

法政大学大学院人文科学研究科心理学専攻

心理学者として、子どもの発達にかかわる研究を進めている。
『子どもの10歳の壁とは何か?乗り越えられる発達心理学』(光文社新書)、『ウチの子,最近,手に負えない!』(すばる舎)など著書多数。

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